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先端科学高等研究院長からのメッセージ

安全・安心で持続可能な活力あるグローバル社会の実現を目指して

先端科学高等研究院長(学長) 長谷部 勇一

21世紀に入り、アジアなど新興国に経済成長の軸がシフトし、資源・エネルギー問題、環境問題、格差問題が顕在化し、また、国際政治関係も不透明さが増している現在、安全・安心で持続可能な活力ある未来社会を実現することは、世界的に共通した期待であり課題であると思います。弛まない技術革新がもたらした新技術・新システムを社会に、そして日常生活に導入することによって新たな機能が提供され、それを利用する社会のイノベーションが実現されます。技術革新やグローバル化等による社会の変化は、望ましくない影響をもたらす要因も孕んでいます。未成熟な技術や複雑化したシステムの導入に伴う事故、ヒューマンエラーによるトラブル、システム障害の発生など、便益享受の表裏となった不透明性や不確実性、そして望ましくない事象や影響がもたらされることになります。

最新のリスクの捉え方では、多様なリスクはそれぞれ連関しており、好ましい影響と好ましくない影響の双方を持つとして、それらの大きさについて不確実性を考慮しながら定量的なリスクの評価を行う必要であるとされています。もとより“ゼロリスク”を目ざしたのでは技術・システムや社会の進歩はあり得ないことになります。リスク共生社会を検討する際のリスクの概念は、上記したリスクのとらえ方、考え方に基づいています。

新技術・システムの導入による新たな可能性を追求するにあたり、どのリスクをどう選択するか、どのような好ましくない影響であればこれを受け入れると判断するのか等、合理的な意思決定に寄与できる多様な知見や情報が不可欠です。立場や考え方、さらには入手可能なデータや情報、経験等によってリスクの捉え方は多様です。多様なリスクに対して、個々の市民や地域社会の意思決定、そして政策決定や経営判断に至るまで、適切な決定・判断を行うための仕組みを構築するためには、リスクの捉え方やリスクのコミュニケーションの仕方も含めてリスクマネジメントの新たな取り組みを創造する必要があるのです。

リスク共生とは望ましい社会、すなわち安全・安心と持続可能で活力ある社会の実現において、多様なリスクへの対応のための考え方と取り組みであり、定量的かつ信頼できる情報やデータなどエビデンスに基づく多様な側面での適切な意思決定を実現するフレームです。

本学では、2014年度に大学改革強化推進補助金により先端科学高等研究院(以下、IAS)を創設し“リスク共生”の考え方に基づいて、21世紀社会におけるリスクへの合理的な対応の在り方および安全・安心で活力ある持続可能社会の実現に供する研究を開始し、2014年度から2017年度までを第1期として研究活動を行いました。この活動の実績を評価していただき、IASの運営に係る上記の補助金は平成30年度からは機関経費化されました。

これを契機に、IASにおけるリスク共生学に基づく安全・安心で持続可能な活力ある社会の実現を目指した研究は、2018年度から第2期に移行しました。第2期のテーマはリスク共生の考え方に基づく「社会価値イノベーション」です。社会価値の創出と実現に資するイノベーションの実践的研究に対して「社会価値イノベーション研究群」をまず組織しました。この研究群には、「共創革新ダイナミクス研究ユニット」に加えて、社会の新エネルギーシステム創造を担う「水素エネルギー変換化学研究ユニット」が配置されています。情報セキュリティと社会インフラの安全については「サイバー・ハードウェア・セキュリティ研究群」と「インフラストラクチャ・リスク研究群」を組織しました。前者には情報・物理セキュリティ、量子情報セキュリティ、超省エネルギープロセッサ、集積フォトニクスの4研究ユニットが、後者には社会インフラストラクチャの安全とエネルギーシステムの安全に係る研究ユニットがそれぞれ配置されています(表1参照)。

表1 先端科学高等研究院の研究群および研究ユニット一覧

内容が前後しますが、IASでは2014年度から2017年度の間に、安全・安心で持続可能な活力ある社会を実現するための要素として、強靭な社会インフラ、暮らしやすい生活環境、安全・安心な情報システムを取り上げ、これらの研究分野に対して合計11の研究ユニットを配置して研究活動を実施してきました(表2参照)。

表2 第1期における研究分野と研究ユニットの配置および研究課題

リスク共生の考え方、リスク共生社会を実現するための方策、そして前出のリスク共生の考え方に基づく安全・安心で持続可能な活力あるグローバル社会の実現を目指した第1期の研究成果について、成書“リスク共生学-先端科学技術でつくる暮らしと新たな社会”(丸善出版)として2018年7月に刊行しました。ご参照いただければ幸いです。

前述のように多様なリスクはそれぞれ連関しており、不確実性を伴いながら、好ましい影響と好ましくない影響の双方を持つと考えられます。“ゼロリスク”を目ざしただけでは技術・システムや社会の進歩はあり得ないことになります。安全・安心と持続可能で活力ある社会の実現に向けて、定量的かつ信頼できる情報やデータに基づく多様な側面での適切な意思決定を通して、新たな社会価値を創造するためのイノベーションを推進するための方策を提示できる研究成果を追求していく所存です。合わせて、その成果のグローバル展開に対して横浜国立大学はさらなる貢献をしてまいります。一層のご支援、ご鞭撻をいただきたく、よろしくお願い致します。

先端科学高等研究院長(学長)
長谷部 勇一

副高等研究院長からのメッセージ