連携事例

横浜国立大学とダナン大学の連携

ダナン大学はベトナム中部にある国立大学である。横浜国大とダナン大学は包括連携協定を結び、活発に交流している。経済成長まっただなかで社会インフラの建設が急がれるベトナムと、高度経済成長を既に卒業し社会インフラの老朽化対策が重要になった日本で、それぞれの大学の特色を生かしてどのように協力してきたの か。両大学の冒険的な取り組みを紹介する。

ダナンの美しいビーチと南シナ海

ダナンの美しいビーチと南シナ海

 ベトナム中部の都市、ダナン。飛行機を降りると、蒸し暑い空気に包まれる。肌がじっとりとして、熱帯に来たことを実感するときだ。ダナンは美しいビーチと海鮮グルメで知られた東南アジア有数の観光リゾート地。日本からは直行便が就航していて、夏のシーズンともなれば家族連れで賑わっている。リピータも多いらし い。数年ぶりに訪れた人は空港の国際線ターミナルがリニューアルされたことに気づくだろう。ダナン国際空港は2017年にリニューアル・オープンした。市街に高層ビルが増えているのにも気づくだろうか。ダナンは、今、経済成長真っただ中である。外洋に面した良港であり、南北に長い国土のほぼ中間点であり、インドシナ 半島を横断する道路「東西経済回廊」の東の起点である。立地に恵まれた交通の要衝であり、北部のハノイ、南部のホー・チ・ミンと並ぶベトナム中部の大都市である。ダナンは成長のためのインフラ作りに余念がなく、市内を流れるハン川には、2000年からの十数年の間に五つの橋が架けられたほどである。

 また、ダナンには観光と経済の二つの顔のほか、大理石の産地という三つ目の顔がある。市内の観光地、五行山(英語ではマーブル・マウンテン)の観光客向けの店では、身長を越える大きな彫刻から手のひらに乗るような手ごろな置物まで、様々な大理石の土産物を買うことが出来る。

 その、ダナンの大理石でできた大きな彫刻が横浜国立大学の構内にある。構内のメインストリートが大学会館前のバス通りと交差する辺り、正門に通じる石畳の道の真ん中に、木々に囲まれた植栽の中に建っている赤みを帯びた石碑がそうである。正面にYNU YOKOHAMA National Universityと刻まれている。

ダナン産大理石の碑

ダナン産大理石の碑

 食堂にも近く人通りの多いところなので、目に留まらないはずはないのだが、見ているとほとんどの人が足を止めずに通り過ぎている。入学・卒業の記念写真のほかは関心を集めないようである。ましてや、この石が、横浜国立大学と ダナン大学の交流の記念碑的存在であることを知っている人は少ない。

 話は2011年にさかのぼる。横浜国立大学の山田副学長(当時)とダナン大学(当時)のナム学長が会う機会があった。そのとき、両大学の協力が話題に上った。それぞれの大学で意義や効果などを検討し、包括連携協定を結ぶに至った。大理石の銘板は、これを記念して設置されたものである。

 こうしてはじまった両大学の連携はこれまで着々と進んできた。ダナン大学には2011年には、安心・安全の科学研究教育センターが、2014年には横浜国立大学の国際ブランチ(海外協働教育研究拠点)が設置され、教員と学生の交流や共同研究が盛んに行われている。昨2018年も教員・学生は活発に交流した。その中から、昨 年に来訪された二人の若い研究者について活動を紹介しよう。二人は、ダナン大学のタオ講師とホアン講師である。予め断っておくが、この記事は、ダナン大学のタオ講師とホアン講師へのインタビューを主な情報源として、他に調査した情報を加え、著者(中川)の視点で構成したものである。

 それでは、まず、タオ講師との共同研究から紹介しよう。ハン川に五つの橋が架かっているのは、先に述べたとおりである。このうち、最下流のトゥアンフォック橋は2009年に開通したベトナム最長の吊り橋であり、交通の要衝・ダナンにとって重要な橋である。ところが、困ったことに、この橋が、激しい振動のせいで2011 年に大型車通行止めとなってしまったのだ。ダナン大学が原因の解明と対策立案にあたることになったので、連携の一環として共同研究で取り組むこととなった。

横浜国大でのタオ講師(左から2番目)左から笠井准教授、タオ講師、栗山客員教授、ドク氏

横浜国大でのタオ講師(左から2番目)左から笠井准教授、タオ講師、栗山客員教授、ドク氏

 両大学の研究者が協力して橋を観察・調査したところ路面に激しい交通が原因と思われる荒れが見られた。路面の荒れが振動の原因であるとの仮説を立て、橋に加速度計を取り付けて振動を計測し、シミュレーションで解析すると、原因が特定できた。振動の原因は、想定外の交通量による路面の荒れであった。続いて、解析 結果をもとにして、適切なメンテナンス計画を作り、提案することでプロジェクトは完了した。

 この問題は、ひとまず解決したが、タオ氏の研究はここが起点である。タオ氏は、吊り橋だけでなく斜張橋や、主塔が複数ある橋など、より複雑な構造の橋について研究を発展させ、栗山客員教授(当時、東京大学人工物工学研究センターの教授(現在、リスク共生社会創造センター客員教授))の継続的な指導の下、ダナン大学 から学位を授与された。栗山客員教授は、インフラの管理に関する研究に取り組んでいる。共同研究開始当時は横浜国立大学の「安心・安全の科学研究教育センター」の教授として、2013年に東京大学に転出された後は、人工物工学研究センターの教授として笠井准教授と連携しながらタオ氏との共同研究を主導された。

 この共同研究が成功したことを受け、両者は新たな研究テーマを見つけて、連携を深めることを決めた。次のテーマは、日本とベトナムの自然環境や社会・経済の相違を生かし、それでいて双方の共通の課題を解決するテーマが望ましい。しかも社会インフラのリスクという視点をはずさず、トゥアンフォック橋の振動につい ての経験を活用することを考慮すると、「塩害による橋梁の腐食環境解析」がテーマに浮かび上がった。タオ講師の来訪は、その進め方についての打ち合わせである。

 海から飛来する塩分によるインフラの腐食は海岸線の長い両国に共通の問題である。日本では、東京大学と横浜国立大学の調査で、台風の後で海岸から飛来する塩分量が増加することがわかっている。現に、台風の後に塩害で首都圏の鉄道が乱れたことは記憶に新しい。 熱帯モンスーン気候のベトナムは、日本より高温多湿で、台風が多いので、塩分による腐食は深刻である。新たな飛来塩分の測定法の開発や飛来塩分メカニズムを解明することができれば、日本も、ベトナムも、社会インフラを塩害から守るための有益な情報が得られる。このような果実を期待しての来訪・協議である。さて、 どのような協議が行われたのか。今後の進展が楽しみである。

 タオ講師来訪の狙いが、これまでの成果の深掘りであるのに対し、ホアン講師の来訪目的は、化学工学の領域に連携のウィングを広げることである。昨年12月、ホアン講師の滞在中にベトナムで二番目の製油所・石化プラントが操業した。ベトナム北部のニソン製油所、ベトナムのほか、日本とクウェートの企業との合弁であ る。ベトナムは、南部に海底油田をもつ産油国であるが、これまで、ベトナムには中部のズンクワットにひとつしか製油所がなかった。しかし、経済成長驀進中のベトナムに、製油所が一つではこころもとない。エネルギーの消費も石油化学製品の消費も増えるだろう。また、輸出の増加は成長のエンジンである。

横浜国大で歓迎を受けるホアン講師(左)右は三宅副高等研究院長

横浜国大で歓迎を受けるホアン講師(左)右は三宅副高等研究院長

 ホアン講師は「今は、まだ石油やポリエチレンなど、比較的付加価値の低い製品を生産しています。これからは、生産技術を向上させて高付加価値製品の製造・輸出に乗り出したいのです」と言う。しかし、そのためには石油製品を今までより複雑な工程で大規模に生産する技術のほか、危険物を安全に管理する技術が必要で ある。

 ホアン講師は続ける。「ベトナムには、製油所・化学プラントの安全工学を学んだエンジニアが必要ですが、ダナン工科大学には安全工学を教育する学部がありません。横浜国立大学に期待しています。具体的には修士課程の学生を派遣して教育してもらうことを考えています」。大規模な製油所が二か所になったベトナムで は、エンジニアの育成が急務である。どのような連携に繋がるのか、両大学に果実のある連携はどのようなものなのか、こちらも期待が膨らむ。

 両大学では、このほかにも、いくつか連携を発展させて行く共同研究の卵を温めている。その卵が孵化し、有意義な連携に育ってゆくことを楽しみにしている。

 ベトナムと日本は、気候や地理、歴史や文化が大きく異なっている。人の考え方も異なる。異なるものが出会って新しいものを作ることができれば、まさにイノベーションの創出、わくわくすることではないか。両大学の連携から、イノベーションが生まれることがあれば、実に喜ばしいことである。

 さて、ハン川に架かる五つの橋の三番目、ちょうど真ん中はロン橋である。漢字で書けば龍橋、英語ではドラゴン・ブリッジである。その名の通り、黄色い龍の形をしている。週末の夜には龍が口から火と水を吐くショーを行っているので、観光客だけでなく、地元の人たちにも人気のスポットである。

ロン橋の黄色い龍

ロン橋の黄色い龍

 この橋の龍の色、黄色は陰陽五行説では万物の中心を表わす色である。黄色い龍は「黄龍」といわれ、世界の中心に座し、東西南北の四神を従える最上級の神獣である。火焔を吐く黄龍は、まさにダナンの人の発展への意欲そのものではないか。胴を波打たせて力強く走る姿は、成長するダナンの自信を表わしている。この橋 を車で渡ると、あたかも躍動する巨大な黄龍と並走している感覚に捉われ、力がみなぎってくる。黄色い龍は、横浜国立大学とダナン工科大学の連携の未来を象徴しているような気がした。

週末の夜、ライトアップされて火焔を吐くロン橋の龍

週末の夜、ライトアップされて火焔を吐くロン橋の龍

 (先端科学高等研究院 研究戦略企画マネージャー 中川正広)