多様な連携により研究の社会実装を強力に推進

三宅淳巳 副高等研究院長

安全・安心で持続可能な社会を作っていくために

横浜国立大学は、「リスク共生学に基づく教育研究拠点の形成」に向け、平成26年10月に先端科学高等研究院(IAS)を創設。「リスク共生学」をコンセプトに、研究、教育、社会実装、産学連携、海外展開など包括的な取り組みを行うことで、大学改革を強力に推進しています。これまでも、本学の強みでもあるリスク共生学分野について、世界第一級の研究者と共に、今日のグローバル社会が直面するリスクといった課題に対応するため、戦略的研究を行う世界拠点を構築。さらにその成果を踏まえた分野横断型の都市科学部を設置し、我が国の課題である持続的発展に資する理工系のグローバルリーダーの養成に尽力して参りました。

三宅淳巳副高等研究院長

本学では「リスク共生学」を「多様なリスクの的確な把握、評価に基づいてそれらを効果的・効率的に低減し、直面する課題の合理的な解決を通して安全・安心で持続可能な活力ある社会を実現するための新しい価値観に基づく学際科学」と定義しています。

安全・安心で持続可能な社会を作っていくために、新たな価値観の創生と、効果的、効率的な対応をリスク共生学は目指しています。そこでIASでは、高等研究委員長を学長が自ら務めることで、トップダウン型のシステムを整え、学内、海外、産業界から各分野におけるスペシャリストが集結してユニットを結成。各ユニットは学内の共同研究者や学外、海外から研究者を招聘し、ユニットをいくつか束ね、グルーピングすることで、新しい学術領域を創生することを目的としています。

各ユニットは、研究活動の持続性と新たな展開に関して、コンソーシアムを形成することを念頭においています。例えば、あるプロジェクトに関して賛同いただける方に集まっていただき、新たな展開を探索します。そこで、共同研究あるいは受託研究、外部資金の獲得を通しながら、さらには留学生研究員を招聘し、人材育成を進めていきます。

第一フェーズでは、「安心・安全イノベーション」「スマートシティ創造とイノベーション」「ライフイノベーション」という3分野、11の研究ユニットで研究活動を進めてきました。その成果のひとつとして2018年1月に、横浜で「IAS Dissemination Conference」を開催するとともに、「リスク共生学―先端科学技術でつくる暮らしと新たな社会」という書籍の発行に至りました。

知の創出の循環を、学内・学外・国外で推進

2018年4月にスタートした第二フェーズでは、第一フェーズで仕組みを作り上げた「知の創出と循環システム」を実現することで、研究力のさらなる向上と社会貢献を念頭におき、新たな研究テーマの最適な評価や支援を行い、IASの強みをさらに生かしていきます。さらに、研究成果を社会に明らかな形で実装していきます。また、各研究ユニットなどが試行的に行う取り組みについても、特に成果があるものを全学的な規模で展開することによって、大学全体の研究力の底上げを図ります。

IASでは研究成果を「リスク共生社会創造センター」を通し、国内外の行政、事業者など、様々な産官学連携をしながら迅速な社会実装することで、世界をリードしていきます。例えばリスクあるいは安全の観点から様々なシステムを社会実装する場合、法規制、国際規格、あるいは技術基準などを整備することが重要です。その観点から、国際基準や国際規格、技術基準、あるいは法規制などへのコミットメントも積極的に行っていく必要があります。このように、種々の連携や研究活動を通して研究拠点を形成するためには、スター選手が一人いるのではなく、若手を含めた人材の育成が不可欠です。こうした点も踏まえ、IASのフェーズ2では、知の創出の循環を、学内、学外、海外で進めていくことを目指しています。

第二フェーズでは「サイバー・ハードウェアセキュリティ研究群」「インフラストラクチャリスク研究群」「社会価値イノベーション研究群」の3研究クラスターを設置し、各クラスターおよびそれぞれに配置される各ユニットにおいて、基盤的、応用的な研究が進められています。これらを基盤としてイノベーションを起こし、さらに発展的な研究としてコンソーシアム、あるいはリビングラボなどで研究を行いながら、研究成果をリスク評価と管理、あるいは価値を創出するためのイノベーションにつなげていく方法論を研究していきます。さらに、「オープンイノベーションプラットフォーム」を構築し、イノベーションの創出を地域連携、あるいは国際連携によって実現し、研究成果を社会実装するといった“パッケージ”を、強力に推進していきたいと思います。

講演動画