専門性を超えた学術連携で社会に役立つ技術やシステムを実現
松本 勉 教授・主任研究者(PI)
サイバーフィジカルシステムやIoT(モノのインターネット)が社会に浸透してきていますが、そこには端末機器、ネットワーク機器、サーバー、クラウドといったハードウェアが存在しています。従って、ソフトウェアに留まらず、ハードウェアについても考慮されたセキュリティ対策を行う必要があります。例えば自宅に設置されたIoTのセンサーがデータを収集し、それを第三者が処理するわけですが、こうした状態をいかにしてセキュアな状態に保ち、安全・安心な生活を実現できるかを考えなければなりません。こうした課題に対応するために、サイバーセキュリティ技術、光・量子を応用した次世代のデバイス技術を研究する「サイバー・ハードウェアセキュリティ研究群」には、4つの研究ユニットが存在します。
「集積フォトニクス研究ユニット」では、最先端のレーダーセンサーといった非常に優れた技術を開発しており、データ収集といった側面に寄与しています。「超省エネルギープロセッサ研究ユニット」では、スーパーコンピュータ、量子コンピュータ的な超省エネルギー技術を用いて、クラウドのエネルギー問題を抜本的に解決しようという壮大な計画を持っています。「量子情報セキュリティ研究ユニット」では、今後優れた性能の半導体が登場した際にも耐えうる量子暗号について先進的な研究を行っています。「情報・物理セキュリティ研究ユニット」では、その他すべての課題を洗い出した上で、新たに見つかった課題を解決していこうという構想があります。
サイバー世界の脅威は当然フィジカルの世界にも及びます。私たちは、IoTの世界における、マルウェアやサイバー攻撃の実態を観測する仕掛けを世界に先駆けて開発して、様々な連携先に情報共有を行ったり、具体的な施策に結びつけたりしていますが、研究クラスター内の連携の一つに、「計測セキュリティ」という新規分野があります。例えば、自動車運転中に歩行者が飛び出した際、光学センサーなどで相手の位置を把握することができますが、何らかの攻撃装置によって、その距離が正しく計測されないと、事故に繋がります。そこで、光技術を、集積フォトニクスを駆使して研究する「集積フォトニクス研究ユニット」との連携に期待しています。
他にも「CRYPTREC」という日本の暗号技術のプロジェクトを、総務省と経産省が共同で進めており、私が座長を務めています。例えば、まだ量子コンピュータは開発途中ですが、世界でトップ500に入るような性能を誇る日本のスーパーコンピュータすべての処理能力の総和に匹敵するくらいに、解読能力が伸びてきています。こうした量子コンピュータや量子暗号などへ対応するため、ユニット間の連携を進めています。
私たちのクラスターも社会実装を非常に意識しており、コミュニティや学会、研究会を形成したり、欧米の大学や国内の主要な研究機関などと連携しています。また、「IoTセキュリティフォーラム」を毎年開催し、2018年は2日間で約1000人を集め、活発なディスカッションを行うことができました。2019年も7月末にお茶の水で開催予定です。