向純怡 IMS招聘准教授(IMS台風科学技術研究センター)

研究者プロフィール

・氏名:向 純怡(Xiang Chunyi)
・本務先:中国気象局国家気象センター  台風・海洋気象予報センター  台風予報課長
・総合学術高等研究院での所属と役職・役割:台風科学技術研究センター IMS招聘准教授
・主な研究分野:台風予報の技術、台風の構造

横浜国立大学キャンパス内のご自身の研究室にて

 向 純怡IMS招聘准教授は中国気象局台風・海洋気象予報センターの高級工程師(中国の技術職名制度の称号)です。2022年12月に総合学術高等研究院 台風科学技術研究センター(TRC)招聘准教授として来日しました(2022年12月~2023年12月)。大学進学の際、向 純怡IMS招聘准教授の第一志望は気象ではなくメディアでした。しかし、長江流域で育った向准教授は、洪水などの災害をよく目にしてきたため、やがて地域防災に貢献したいという思いが芽生えました。そのため、大学時代から気象関連の学問を専攻し、博士課程から台風に関する研究を始めました。中国気象局に在籍時には、主に台風予報の技術と台風の構造に関する研究に取り組んでいました。台風研究者としての今回の日本(YNU)派遣により、台風上陸時の海洋反応が台風の強度と構造に与える影響に関する自身の研究を拡張できることを期待しています。向 純怡IMS招聘准教授は、TRCでの研究を通じ、台風予報の精度を向上させると同時に、国際的な交流を強化し、気象災害による損失を最小限に抑えることを目指しています。

質問:TRCの研究環境と雰囲気についての感想を聞かせてください

 TRCは台風研究の国際的な研究拠点です。まだ設立されてから日が浅いですが、日本及び世界のトップ級の台風研究者を集めて研究活動を拡張しています。日本国内関連機関からだけではなく、アメリカからの技術サポートも受けられ、技術的な補完体制が整っている国際的な研究拠点です。TRCでは自由度の高い研究環境が提供されており、研究者にとって理想的な職場です。
 また、研究室では、風雨を問わず毎日取り組んでいる活動があります。教員や学生が建物の最上階で観測機器を使い天気を観測し、その記録を長期間にわたって継続しています。このような基礎的な観測作業は、中国の研究室では観測自動化設備の導入によりあまり見られなかったものですが、学生たちが天気予報の基本原理を身をもって理解するために大変有益です。そのため、この活動は非常にありがたいものだと思います。
 さらにTRC研究室では、毎日一緒に昼食を食べる機会もあります。これにより、照れ屋な日本人も含めたカジュアルな雰囲気の中で交流が促進され、お互いの文化をより深く理解することができます。また、教授との研究個別ミーティングでは、内容が簡単であっても毎回2時間以上の相談時間が確保され、報告内容の細部まで詳細に議論されます。これにより、TRCのメンバーが外国人研究者に対して友好的な態度を持っていることが感じられ、非常に感心しています。

高等研究院棟前にて

質問:日本気象庁を見学した感想を聞かせてください

 気象庁見学で一番印象深かったのは、高い作業効率です。気象観測・分析・予報のプロセスは、中国では最低限10人が同時に作業する必要があります。それに対して、気象庁では5人で全ての作業に対応しています。その理由について尋ねたところ、「人材が不足しているため、結果的に効率が高くなったのです」と答えていました。私は気象庁の効率的な作業に感心しています。作業の高効率化は、事前に作業を細分化し、予備案などを綿密に策定したことによって初めて実現できたのだろうと考えています。

気象庁訪問時にて

質問:残りの日本生活について、特に期待していることは何ですか

 先日、ある日本人に「日本で最も深く印象に残ったことはなんですか」と聞かれました。その時、私は「穏やかで規則的な生活、これは北京では望めない生活です」と答えました。北京での生活とは異なり、日本では社交に多くの時間を費やす必要はありません。日本での知り合いが少ないという事情を考慮に入れると、さらに社交の余地は少ないです。その結果、自分自身に向き合う時間が長くなり、自己をより深く知ることができています。私はこのような状態がとても好きです。ですから、残りの半年間は自分自身にフォーカスする状態をより大切にして、楽しんでいきたいと思います。また、研究の面では、これまでは自分が興味のある研究に取り組んでいましたが、今後は日本の得意な技術と自分の研究を結びつけた研究を試みたいと考えています。

質問:今までの人生について、100満点で自己評価するとしたら、何点だと思いますか

 80点くらいだと考えています。この点数は中程度という意味であり、特に高いわけでも低いわけでもありません。過去の経験から言えば、自分のやりたいことをある程度達成することができたので、80点と評価することができます。ただし、まだ改善の余地があり、もっと完璧にすることができると感じていますので、80点にとどめました。

質問:今後のキャリアや人生の目標について教えてください

 実は、訪日前に中国気象局のリーダーから次のようなことを伝えられました。「向さんの訪日を通じて、日本側と長期的な協力関係を築くことは非常に重要です。少なくとも、国際的な場での意思疎通に困難や障害が生じないように、日本の気象関係者と多くの繋がりを持っていただきたいです。これは、中国の今後の発展と国際的な影響力の向上にとっても重要です」。また、日本気象庁を訪れた際、先方のご担当者も「中国を訪れたい、日本の気象学者の訪中のチャンスを作りたい」と仰っており、中国の技術にも非常に関心を持っていると感じました。近年の中国では、人工知能がさまざまな分野に浸透し、気象研究も大きな進展を遂げています。このことは、日本の学者にも大きな影響を与えると考えられます。
 したがって帰国後は、日中両国の架け橋となることを使命として、両国の台風研究をつなぐプラットフォームの構築に力を注ぎたいと考えています。自身の経験を通じて、横浜国立大学が世界トップレベルの台風に関する研究を行うセンターを運営していることを中国に広く周知し、さらに多くの優秀な学者が日本を訪れ、また日本の学者が中国を訪れる機会を作り、持続的な学術交流を深めていきたいと思っています。

中国国家気象局での執務風景