2023年2月28日に先端科学高等研究院(Institute of Advanced Sciences:IAS) 第二フェーズ(18年度-22年度)の研究活動を締めくくる「第二フェーズ総括シンポジウム」─ 最先端の科学研究を、最前線の社会課題に、つなげる。─ が開催されました。5年間にわたる先端科学高等研究院第二フェーズの研究活動成果をレビューしつつ、豊かな未来社会に向けて取り組むべき課題と各研究分野におけるその解決アプローチの考え方を共有し、2023年度から新たにスタートする活動第三フェーズの方向性が発表されました。また、後半セッションでは、本学第二の高等研究院として2023年4月に誕生する「総合学術高等研究院(Institute for Multidisciplinary Sciences:IMS)」主任研究者を交えたパネルディスカッションが実施され、ユニークな研究ビジョンと技術力で世界をリードする研究者達がその専門領域の境界(バウンダリー)を越え、本学が目指す未来ビジョンに向けた取り組みの可能性について討議しました。

※ 本記事内の所属及び役職は全てシンポジウム開催時点のものです

オープニング【第一部】

開会挨拶

 開会挨拶に登壇した 梅原 出 横浜国立大学長・先端科学高等研究院長 は、「先端科学高等研究院は 本学研究活動におけるトップ・中核を成す組織 である」とその位置付けを定義し、23年度、総合学術高等研究院の新設とともに新たなスタートを切る高等研究院の再編成についても言及しました。全学として特別な意味を持つマイルストーン・イベントに列席いただいた特別基調講演者への謝辞とともに、新高等研究院の主任研究者となる若手研究者が未来社会を語るパネルディスカッションへの期待を述べ、シンポジウムのオープニングを宣言しました。

特別基調講演① – 本間 政雄氏

「危機の時代の連携、協働」

本間 政雄氏(大学マネジメント研究会会長・大学政策アナリスト)

 本間政雄氏は1997-99年に横浜国立大学事務局長を歴任された経歴を持ち、大学改革の観点から国立大学が直面する複数の経営課題を提起。それらを解決し大学発展に導くための強力な武器として、他大学・高等研究機関や企業、教職員間の連携」・「協働の重要性を強調しました。連携大学院や単位互換、企業研究者登用や教職員同士の日常的な交流機会の増加など、その具体的な事例を挙げ、危機の時代におけるマインドセット変革を訴えかけました。


最新研究トレンド【第二部】

第二フェーズ活動総括

 吉川信行 先端科学高等研究院 副高等研究院長は、2014年10月設立時にスタートした活動第一フェーズ、それに続く2018年度からの第二フェーズの狙いと施策、研究組織の進化変遷を振り返ったのち、2023年2月現在の研究ユニット構成概要を紹介しました。また、研究力強化により 知の統合型大学 を目指す本学全体のアプローチシステムを概観し、強化すべき研究分野の組織化(研究群・ユニット化)や4つの実践型アカデミックセンターを有する高等研究院の位置付けについて詳細に説明しました。2件のムーンショット型研究開発事業PM(プロジェクトマネージャー)への採択1,2など、組織的強化による大型プロジェクト獲得成果や研究体制規模の拡大に加え、SNS等を活用した研究成果の見える化や社会発信への積極的な取り組み事例などについても紹介し、第二フェーズ活動のまとめと今後の実施課題について総括を行いました。

研究群プレゼンテーション

 先端科学高等研究院 第二フェーズ各研究群に所属する研究ユニット代表PI(Principal Investigator=主任研究者)が順に登壇し、第二フェーズ5年間の研究総括と今後の研究未来ビジョンについて発表を行いました。※ 各発表詳細は動画視聴リンクより閲覧ください。

サイバー・ハードウェアセキュリティ研究群

発表者:松本勉 教授(ユニットPI)

  • 情報・物理セキュリティ研究ユニット
  • 超省エネルギープロセッサ研究ユニット
  • 集積フォトニクス研究ユニット
  • 量子情報セキュリティ研究ユニット

インフラストラクチャリスク研究群

発表者:前川宏一 教授(ユニットPI)

  • エネルギーシステムの安全研究ユニット
  • 社会インフラストラクチャの安全研究ユニット

社会価値イノベーション研究群

発表者:安本雅典 教授(ユニットPI)

  • 共創革新ダイナミクス研究ユニット
  • 水素エネルギー変換化学研究ユニット

センタープレゼンテーション

 3つの研究群(8つの研究ユニット)代表からのプレゼンテーションに続き、4つの実践型アカデミックセンターの活動成果と今後の研究活動方針が各センター長より共有されました。※ 各発表詳細は動画視聴リンクより閲覧ください。

リスク共生社会創造センター

発表者:澁谷忠弘 リスク共生社会創造センター長

量子情報研究センター

発表者:小坂英男 量子情報研究センター長

  

先進化学エネルギー研究センター

発表者:渡邉正義 先進化学エネルギー研究センター長

台風科学技術研究センター

発表者:筆保弘徳 台風科学技術研究センター長

  


先端技術と未来ビジョン【第三部】

第三フェーズの体制と研究概要

 コーヒーブレイクとポスターセッションを挟んだ第三部では、再び 吉川信行 先端科学高等研究院副高等研究院長 が登壇し、第4期中期目標として掲げた全学としての経営方向性・ビジョンと重点実施事項を紹介するとともに、高等研究院が推進する役割についてプレゼンテーションを行いました。特に、第三フェーズを迎える先端科学高等研究院の新たな研究組織体制や、世界水準の総合学術研究を推進する「総合学術高等研究院(Institute for Multidisciplinary Sciences:IMS)」の設立趣旨と概要を改めて重点的に説明し、IMS内に新配置される研究ユニット・研究センターの目指す研究ビジョンとその社会的価値、具体的な研究体制について理解を求めました。

 また、プレゼンテーションの後半では、IMSの研究成果を社会に発信することで新たなビジョンや成果の創出を目指す「YNU Dialogue」構想を参加者と共有し、最後に第三フェーズのスタートとなる次年度以降の高等研究院活動方針として、以下を発表しました。

  1. IAS/IMSの新たな研究ユニット、研究センターの始動
  2. IMSを核とした社会との対話「YNU Dialogue」の実践
  3. 第4期中期計画に沿った活動の推進
  4. ベンチャー化等、IAS研究成果からの価値創造を加速するスキームの検討

特別基調講演② – 林 裕子氏

「社会問題解決と価値創造のためのテクノロジー ~アフターコロナ時代のシナリオ~」

林 裕子氏(山口大学大学院 技術経営研究科 特命教授)

 特別基調講演②に登壇した林裕子氏は、政策立案プロセスの観点から科学技術が社会課題解決に果たす役割の変化について、「最適化・迅速化・連携化」の3つの切り口で取り組むべき課題と、英国などグローバルスタンダードな政策マネジメントのトレンドやその具体的事例を例示し、大学研究機関から社会変革を担う人材の輩出を期待したいとのメッセージを参加者に語り掛けました。

パネルディスカッション

「独創的な研究ビジョンとテクノロジーが切り拓く社会との共創」

 シンポジウム最終セッションとなるパネルディスカッションでは、第三フェーズIAS・IMS新規PIとして就任予定の研究者4名が席を並べ、社会インフラ整備・ヘルステック・サイバーセキュリティ・高効率クリーンエネルギーなど異分野からの卓越した視点を持ち寄り、それらの領域を超越した社会変革のビジョンやインパクト創出のための共創の可能性について活発な議論が行われました。

パネリスト・モデレーター

パネルディスカッション動画(全編 約45分)

閉会挨拶

 シンポジウムを締めくくる閉会挨拶にて 三宅淳巳 横浜国立大学 研究・財務担当理事 副学長 は「新しい未来社会を描き、それに向かってそれぞれの分野で研究を進めてゆく」ことが高等研究院の役割であると述べ、また、本シンポジウムのテーマでもある「社会実装」というキーワードに触れながら、「カーボンニュートラル・脱炭素社会を2050年に達成するにはその10年前までに社会制度が整備されている必要があり、さらにその10年前である2030年までには技術開発が進んでいないといけない。つまり今から5年以内に基礎研究が出来上がっていることを目指す必要がある」と訴えました。「技術と制度の両面がなければ社会実装には至らない」と続けた上で、研究者を含めた会場参加者やステークホルダー同士の密接な連携を呼びかけました。最後に、高等研究院の活動を通じた本学研究力の強化と社会貢献への期待を力強く語り掛け、約4時間にわたるシンポジウムを閉会しました。


関連リソース

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脚注

  1. https://www.ynu.ac.jp/hus/engk3/24531/detail.html
  2. https://www.ynu.ac.jp/hus/koho/27874/detail.html