インミンパパIAS准教授(IAS情報・物理セキュリティ研究ユニット)

研究者プロフィール

・氏名:インミンパパ(Yin Minn Pa Pa)
・先端科学高等研究院での所属と役職・役割:情報・物理セキュリティ研究ユニット IAS准教授
・主な研究分野:サイバーセキュリティ

横浜国立大学キャンパス内のセミナールームにて

 インミンパパIAS准教授は、2011年に留学生として来日し、横浜国立大学で5年間の留学生活(修士・博士)を送りました。2016年に横浜国立大学で博士号を取得した後、外資系コンサルティングファームで約6年間研究者として勤務しました。そして、2022年に先端科学高等研究院(以下「IAS」という)の情報・物理セキュリティ研究ユニットの特任教員(准教授)として、母校に戻りました。
 インミンパパIAS准教授は、2006年にミャンマーの大学(IT専攻)を卒業後、母国でITエンジニアとして働いていましたが、その際、勤務先がサイバー攻撃を受け、それがきっかけでサイバーセキュリティ分野への関心が芽生えたといいます。その後、情報セキュリティ分野の研究が優れており、奨学金支援も充実していることから、横浜国立大学で情報セキュリティ分野の博士課程前期に進学し、さらに博士課程後期にまで進みました。今は、自身の研究を通じて、サイバー攻撃から個人や組織を守るための知識と技術を前進させることを目指しています。

質問:IASの研究環境と雰囲気についての感想を聞かせてください

 IASの情報・物理セキュリティ研究ユニットでは、国際的な交流の機会が豊富です。米国、ドイツ、オランダなどの大学との連携もあり、海外の優秀な研究者たちと議論をしたり、論文執筆をしたりしています。2023年9月からはオランダからの教授が研究ユニットに加わり、一緒に研究を行う予定です。私自身も今年(2023年)1月にオランダの大学で研究活動を実施しました。今年の5月にはフランスのサヴォワ・モンブラン大学から教授が来日し、講義やディスカッションを行いました。このように、研究室のメンバーは常に国際的な研究に取り組んでおり、国際学会への論文投稿を目指しています。8月にはアメリカで開催される国際学会では、私と学部生の一人が研究発表を行いました。こうした研究や国際学会に関する費用は、原則として研究室の予算でカバーされ、必要な研究設備も研究室の経費サポートがあります。
 日本のセキュリティ分野には、男性が圧倒的に多い傾向がありますが、外国人でありながら女性の私は、そのような「壁」を感じたことが一度もありません。言語的な壁もなく、コミュニケーションがスムーズに取れています。また、私の所属する研究環境はアットホームな雰囲気です。教職員や先生方は親切で、セキュリティの権威である松本教授はまるで父のような存在であり、他の先生方とも兄弟姉妹のような関係を築いています。充実した研究環境が整っており、研究熱心な先生が多いため、深い研究議論ができ、研究の進め方や方向性をより良い方向に導くためのサポートを受けることができます。研究に専念できるアットホームな雰囲気に包まれた研究環境は、本当にありがたいものです。

質問:現在取り組んでいる研究について教えてください

 現在、ユニットPIである吉岡教授の研究室に所属する二つの学生研究グループの研究指導を行なっています。一つ目は脅威インテリジェンスに関する研究グループです。このグループでは、SNS などの詐欺に関する情報、サイバー犯罪者の悪意のあるサービスの販売(例:マルウェアや漏洩情報の販売など)情報、麻薬や漏洩クレジットカードの販売などの情報を収集・分析し、サイバー犯罪のエコシステムを把握できるように研究に取り組んでいます。もう一つの新技術とセキュリティグループでは、生成AIやBlockchainなどの新たな技術から生まれるサイバー脅威に関する研究を行なっています。例えば、ChatGPTなどの生成AIを悪用したマルウェア(悪意のあるプログラム)の自動生成の可能性や、Smart Contract (Blockchain上で実行するプログラム)を悪用したサイバー犯罪に関する研究です。

質問:学会賞(情報通信システムセキュリティ研究賞(ICSS研究賞))を受賞した後の感想を教えてください

 IASに来た当初、研究室の皆さんはすでに論文執筆に向けて議論を進めていました。私は研究議論に途中から参加しましたが、仕上げの部分に関わる形で貢献することができました。学生時代に学会賞を受賞した経験もありますが、今回は研究指導者としての立場であり、学生の皆さんの協力のおかげでこの学会賞を受賞することができました。これは、個人として受賞した時以上に嬉しい出来事です。

質問:今後の日本生活について、特に期待していることは何ですか

 日本の山々、横浜国立大学の緑、そして研究指導者としての取り組みです。
 私は登山が好きです。ほぼ毎月山の中で美味しい空気と山野草を楽しんでいます。今後も、どの山でどんな風景に出会えるのかを楽しみにしています。
 また、横浜国立大学は緑に囲まれた素晴らしい環境に恵まれています。学生時代に、研究が停滞していたときは、私はいつも外の緑の中を散歩し、リフレッシュしました。緑の中でアイデアが湧いたこともしばしばありました。今は学生ではありませんが、毎日大学に足を運ぶたびに周囲の豊かな緑に包まれ、幸せを感じています。そのため、毎日の通勤も笑顔で緑の中に身を置いています。これからも、横浜国立大学の美しい緑をますます楽しんでいきたいと思っています。
 そして、私がここでやりがいを感じるのは、研究指導という仕事です。自分の研究に専念する研究者とは異なり、教員は「先生」として学生の研究を良い方向へ導く責任があります。学生はそれぞれ育まれた環境が異なるため、考え方もバラバラです。彼ら・彼女たちの考え方に合わせた適切な指導が必要です。そのため、大変な側面もありますが、学生の研究力が伸びることを見ると非常に嬉しく、やりがいを感じます。今後の「先生」としての仕事が非常に楽しみです。

日本の雪山を登っている様子

質問:今までの人生についての自己評価と今後の人生目標について教えてください

 人生での後悔も色々ありますが、今、やるべき事に集中して生きていきたいと思います。英語の「プレゼント(present)」には、「今」と「贈り物」の二つの意味が含まれています。今を集中して楽しんだら、良い将来という贈り物をいただくかもしれないですね。
 現在、私の母国であるミャンマーは内戦が続いており、多くの学生が戦争に巻き込まれ、大学教育が悪化しています。母国が平和になった際には、国の再建・復興、主に教育の支援に取り組みたいと考えています。これは今後の人生目標の一つです。