Lieze Schindler IAS助教(量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボ)

研究者プロフィール

・氏名:Lieze Schindler
・先端科学高等研究院での所属と役職・役割:量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボ IAS助教
・主な研究分野:超伝導、レイアウト最適化、セルデザイン

Lieze Schindler IAS助教

 Lieze Schindler IAS助教は、学士から博士まで南アフリカのステレンボッシュ大学で電子工学を専攻しました。2020年に博士号を取得した後、同校で約1年間研究エンジニアとして活動し、2022年に横浜国立大学先端科学高等研究院(以下「IAS」という)量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボの特任教員(助教)として着任しました。Lieze Schindler IAS助教は、大学院生時代に超伝導回路の研究を開始し、その分野が挑戦的で興味深かったため、博士課程に進むことを決意しました。研究の場として横浜国立大学を選んだ理由としては、まず、同大学が最先端の研究設備を整備していたことが挙げられます。そして、IASの副高等研究院長である吉川教授が、ご本人だけでなく、同じ専攻のご主人と一緒に招聘されたことも一因とのことです。Lieze Schindler IAS助教は、博士課程中から吉川教授のチームと共同研究を行い、2017年と2019年に日本を訪れました。博士課程を終えた際、吉川教授からIASに誘われましたが、「興味はあるが、夫との遠距離生活はできない」という悩みがありました。その様な中で、吉川教授から「では、研究者として一緒に来ませんか?」との申し出があり、結果的に夫婦で来日されることになりました。
 現在、Lieze Schindler IAS助教は横浜国立大学で最先端の研究設備を駆使し、自らの研究分野で多くの成果を上げることを目指しています。今後は特に超伝導分野の若手エンジニアの教育への貢献も期待されています。

質問:現在取り組んでいる研究について教えてください

 私の現在の研究は、超伝導回路が実際の応用においてどのように機能するかをより良く理解することに焦点を当てています。具体的には、地球の磁場が超伝導回路に及ぼす影響や、その影響を最小化するための実用的な解決策について研究しています。

質問:IASの研究環境と雰囲気についての感想を聞かせてください

 IASには、最新鋭の研究設備が整備されており、特に計測室が充実しています。南アフリカでは、基本的に計測室やその中の装置に予算がほとんど割り当てられていなかったため、自分の作業をシミュレーションを通じて検証することしかできませんでした。超伝導回路の製造とテストについては、設計をアメリカに送り、製造とテストを委託せざるを得ませんでした。しかし、残念ながらほとんどの場合、スムーズに進まず、原因が不明なままとなり、技術の実際的な理解が非常に難しい状況にありました。一方、横浜国立大学では、優れた計測室が整備されており、私自身で回路を製造し、テストを行うことができます。この実践的なアプローチが、私の研究の理解を深めるために非常に役立っています。
 また、他の研究者との学術交流の機会も豊富です。私の経験から言えることは、南アフリカやアメリカなどの国では研究者が自らの研究内容を他者に伝えたがらない傾向があるため、同じ研究が複数の研究者によって重複して行われることがあります。この状況は非常にがっかりするものでした。一方で、吉川教授の研究室では知識を共有する文化が根付いています。月に一度のZoomミーティングを通じて、名古屋大学や京都大学などの研究者がどのような研究に取り組んでいるかを情報共有しています。この環境では、他者が自分のアイデアを盗んで先に論文を発表する心配は少なく、むしろ研究者同士がお互いの研究に対して有益なアイデアを提供し合っています。さらに、日本では多くの学会が開催され、学術的な活動が活発です。南アフリカでは年に1回しか学会に参加する機会がありませんでしたが、日本では年に3回から4回も学会が開かれています。また、吉川教授とは月に2回、学術ミーティングを実施しており、その際には先生から1対1で貴重な学術的意見をいただいています。
 最後に、IASは国際的な研究拠点として、多くの外国の研究者と交流する機会が豊富で、世界中の人々と協力し、関係を築き、共同研究を進めることができています。

高等研究院棟前にて

質問:今までの人生について、100点満点で自己評価するとしたら、何点だと思いますか

 自分に点数をつけることができるとは思いません。私は自分に対して厳格で、おそらく自己の評価は低いでしょう。おおよそ50点くらいかもしれません。まだまだ達成したいことや追い求めたい夢が山ほどあります!
 もし子ども時代の自分が今隣に座っているなら、「直感を信じて、そのまま進んでいこう!」と伝えたいです。なぜなら、私はあまり計画的ではなく、計画を立てすぎると半分以上が期待通りに進まないと感じるからです。一方で、これまでは自分が直感的に正しいと感じる方向に進んできており、非常にうまくやってきたとも思います。

質問:今後のキャリアや人生の目標について教えてください

 人生の目標については、未来がどうなるかはわからないため、そのような目標を設定するのは好きではありません。ただ、近い将来、南アフリカに戻って前の研究グループで研究エンジニアとして働くことを計画しています。前の研究グループは会社も持っており、研究と同時に、会社の管理運営にも協力する予定です。大学教員になりたいかどうかはまだ確信が持てないですが、選択肢の一つとしては検討しています。当分の間は南アフリカの研究グループに戻り、会社の構築に協力します。
 将来、大学で自分の研究室を持つことになったら、交換留学生プロジェクトを立てて、日本の学生を南アフリカへ留学させる機会をたくさん作りたいと考えています。

質問:日本での特別な経験について教えてください

 2022年、日本のF1グランプリ(自動車競技)を観戦することができました。以前、イタリアのフェラーリ博物館でレーシングカーのシミュレーションを体験して以来、レーシングカーに興味を持っていましたが、まさか日本で実際のレースを観戦できるとは思っていませんでした。
 また、横浜でのラグビー観戦は本当に楽しかったです。日本全国で行われている「ジャパンラグビーリーグワン」と呼ばれるラグビーコンテストに横浜のチームが参加しており、南アフリカ出身の選手たちも多く活躍しています。彼らの素晴らしいプレーにいつも歓声が上がります。
 さらに、雪が降る中、山間の旅館も訪れました。これは私にとって初めての雪の経験でした。その他、特別な経験として、吉野川でのラフティングや桜の季節に四国を旅することもありました。

国際学会の看板前にて

質問:来日前の自分と比べて、今の自分にはどんな変化がありました

 責任感がより強くなったと感じています。博士課程に在籍していた時期や、研究エンジニアとして働いていた時期は、私は研究グループで最も若いメンバーであったため、研究の進捗についてあまり心配する必要がありませんでした。ところが、現在は横浜国立大学で研究推進を主導しており、他のメンバーとコミュニケーションを取り、研究やミーティングの組織的な運営に責任を持つようになりました。
 もう一つの変化は、社交性に関する不安が改善されたことです。私は生まれつき内向的な性格で、以前は他人とのコミュニケーションが苦手でした。しかし、日本ではプライバシーを尊重する社会であり、多くの人が社交的でないことが一般的です。そのため、私はここでの環境によって非常に安心感を得るようになりました。自分を「社交的に変わった」とは感じていませんが、他の人と話すことが私にとってストレスではなくなったと思います。
 また、人生に必要なものに対する考え方が変わりました。日本に来る前は、大きな家を買うことを目指していましたが、それは本当に必要なものではなく、ただ単に大きな家を手に入れたいと考えていました。しかし、日本に来てから、小さなアパートでの生活を通じて、大きな家は必要ないと気づき、むしろ旅行などにお金を貯めることができると感じました。これは日本の生活様式が私に影響を与えたと思います。