Michael Johnston IAS研究員(量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボ)
研究者プロフィール
・氏名:Michael Johnston
・先端科学高等研究院での所属と役職・役割:量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボ IAS研究員
・主な研究分野:フィルター設計、超伝導回路、キュビット制御
Michael Johnston IAS研究員は、2019年に南アフリカのステレンボッシュ大学で修士号を取得し、その後約2年間、南アフリカのアンテナ企業などで産業業界での業務経験を積んできました。そして、2022年には、横浜国立大学先端科学高等研究院(以下「IAS」という)量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボの研究員として着任しました。IASでの仕事は、Michael Johnston IAS研究員にとって初めての研究職であり、南アフリカでは手に入らない設備が整備されたIASの研究環境で、興味深い研究に集中することができ、非常に良い経験を積むことができたとのことです。初めての研究経験の後、Michael Johnston IAS研究員はさらに博士号を取得したいとの思いが芽生え、今後も超伝導回路に関する研究を続ける意向です。
Michael Johnston IAS研究員は、自身の研究を通じて、超伝導デジタル回路のスケーラビリティの向上、およびキュビット制御用のフィルターとスイッチングデバイスの改善を目指しています。
質問:現在取り組んでいる研究について教えてください
エネルギー効率は、次世代のコンピューティングシステム設計と実装において不可欠な要素となっています。超伝導回路技術は、計算アプリケーションにおいて高性能かつ低エネルギー消費を実現する潜在的な可能性を示しています。私の研究は、高速単一磁束量子(RSFQ:Rapid Single Flux Quantum)および断熱磁束量子パラメトロン(AQFP:Adiabatic quantum-flux-parametron)などの超伝導回路技術に焦点を当てつつ、マイクロ波理論を駆使して超伝導デジタルおよび量子コンピューティングの領域において複雑な回路の構築を目指しています。
質問:IASの研究環境と雰囲気についての感想を聞かせてください
南アフリカには、超伝導デジタル回路を製造または測定する施設がありません。そのため、チップは海外の企業によって製造およびテストされます。このプロセスには通常、6ヶ月から1年かかります。これは研究全体のスピードに大きな影響を与えるだけでなく、南アフリカの研究者が製造および測定プロセスに触れる機会がないことを意味します。一方、IASの研究施設には、実験環境の温度を制御する機器があり、チップを極めて低温まで冷却して超伝導デジタル回路の測定を行うことができます。また、日本には、超伝導回路を製造することができる「産業技術総合研究所(AIST)」という独自の機構もあります。これにより、自ら実験を行うことで製造プロセスと実験に関する深い理解を得ることができました。私にとって、これはIASで得た最も注目すべき経験だと考えています。
また、私が所属している吉川研究室は、メンバーの構成が主に外国人であり、南アフリカや中国、アメリカなど様々な国からのメンバーがいます。最近のプロジェクト申請では、審査側が最初に評価したのは、私たちのグループが非常に多国籍で異なる文化を持っていることでした。その時、吉川教授がそのミーティングで唯一の日本人だったため、私たちのグループがかなり国際的であることが印象に残った様です。
質問:今までの人生について、100点満点で自己評価するとしたら、何点だと思いますか
私は自分の人生に満足しています。そのため、90点を得ることができると考えています。日本で働けることは非常に幸運であり、南アフリカ出身者にとっては珍しい経験だと思います。横浜国立大学での経験は、私のキャリアアップや超伝導回路の国際経験の蓄積に非常に有益であり、この貴重な来日の機会に対して心から感謝しています。また、妻(Lieze Schindler IAS助教)と同じ分野で一緒に働き、お互いを支え合い、共にアイデアを出し合えること、そして世界的な問題が多く存在している今日において、私たちが平和な状況にいることにも感謝しています。私は、現在の生活には大変満足しています。
もしも子ども時代の自分が今隣に座っているなら、将来のことをあまり心配せずに人生を楽しむように伝えるでしょう。若い頃は将来のことをたくさん考え、どの道を選ぶべきかを心配していました。しかし、そのような心配はあまり意味がなく、現在の瞬間を大切にして不要な心配に囚われないようにすることが重要だと考えています。現在の瞬間を楽しむことが最良の進むべき道だと思います。
質問:今後のキャリアや人生の目標について教えてください
2024年2月に、私と妻は南アフリカに帰国する予定です。私は南アフリカの電波天文台に勤める予定です。このポジションには研究活動も含まれているため、帰国後も自身の研究を続けることができます。南アフリカ政府直属の研究職は稀少ですが、この機会を通じて現在の研究を継続し、さらに博士号取得の機会を得ることができると期待しています。これにより、南アフリカの科学の発展に貢献したいと考えています。
また、日本との架け橋としての目標は、仕事が定着した後に、横浜国立大学と友好的な交流を保ちたいと考えています。具体的には、共同プロジェクトを立ち上げたり、私の所属する研究機関に日本の研究者を受け入れることも検討してみたいです。さらに、ラグビーを通じた友好交流の促進にも努力したいと考えています。南アフリカはラグビーで有名ですし、日本でもラグビーはとても人気があります。国と国をつなぐ最良の方法はおそらくラグビーの交流だと思います。日本のクラブでプレーするために日本に滞在している南アフリカのラグビー選手が多くいますが、彼らが南アフリカと日本の協力と相互リンクを促進する重要な役割を果たしていると信じています。
質問:日本での特別な経験について教えてください
昨年、大山に登っていた時、突然雪が降り出しました。その雪景色は本当に美しく、予想外の雪で山登りの難度が上がりましたが、それが逆に楽しい冒険になりました。
また、ほどがや国際交流ラウンジでは、外国人向けの日本語クラスも開催されており、私は週に2回の頻度で日本語のクラスに通っていました。日本語の勉強の一環として、最近、私はほどがや国際交流ラウンジが主催する保土ヶ谷インターナショナルフェスタでスピーチを行いました。このイベントは、世界各地の店舗やゲーム、アクティビティがあり、国際文化を祝うイベントです。そこで、私は南アフリカでの生活と日本での生活を紹介しました。国際的な雰囲気の中で、非常にやりがいのある経験でした。
スピーチの最後で、日本語で人々と交流する時に、面白い誤解の体験も紹介しました。郵便局で友達にお菓子を送る時、店員さんが「何を送りますか」と聞いてきたのです。そこで私が「おかしい」と答えると、店員さんがビックリして、「おかしいものですか?」と尋ねられたのです。私は「はい、そうです」と答えたけれども、すぐに自分のミスに気づいて、「ごめんなさい、お菓子です!」と訂正しました。
質問:来日前の自分と比べて、今の自分にはどんな変化がありましたか
日本に来てから、以前の自分と比べて大きな変化を経験しました。特に、他者とのコミュニケーション能力が大幅に向上しました。私はもともと内向的な性格で、日本に来る前は対人コミュニケーションに長けていませんでした。南アフリカ人はとても友好的ですが、人と人の距離を保つことが一般的であり、隣人との交流は時に限られていることもあります。私はこのような生活様式にすっかり慣れてしまっていました。しかし、日本に来てからは、日常生活で他の人たちと関わる必要性があるため、日本語を学び、できるだけ日本語でコミュニケーションを取るように常に努力しなければなりませんでした。さらに、外国人との交流や英語での会話に不安を感じる日本人がいることを考慮すると、日本語を学んで定期的に使用することがコミュニケーションの壁を取り払うのに役立ったと考えています。母国語が主流ではない環境に身を置くことで、私のコミュニケーション能力と人との交流時の自信が確実に向上しました。