Christopher Lawrence AYALA IAS准教授(量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボ)
研究者プロフィール
・氏名:Christopher Lawrence AYALA
・先端科学高等研究院での所属と役職・役割:量子情報研究センター量子制御電子集積回路ラボ IAS准教授
・主な研究分野:超伝導エレクトロニクス、革新的なコンピュータアーキテクチャ、CMOSデバイス
Christopher Lawrence AYALA IAS准教授は、学士課程から博士課程まで、アメリカのニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で電気工学を専攻しました。2012年に博士号を取得した後、ヨーロッパのIBM Research Europe–Zurichで約2年間、ポスドク研究員として活動していました。そして2015年には、横浜国立大学先端科学高等研究院(以下「IAS」という)の特任教員として着任しました。
1990年代の小中学校時代、AYALA IAS准教授は父から人生初のコンピュータをもらいました。そのコンピュータは性能が低く、クロックが100 MHz以下でメモリも32 MB以下でしたが、それを通じて彼は高校時代から3Dアニメーションとコンピュータ生成画像(CGI)の世界に親しむことができました。その後、3Dハードウェア(グラフィックスプロセッシングユニットやGPU)や3Dゲーム機(例えばソニープレイステーション)に興味を持つようになり、シリコンバレーの企業であるAppleやSonyなどで製品開発に携わりたいという夢が芽生えました。大学院に入学後、自身の研究がどのように社会に貢献できるかを考えた結果、彼は製品開発から最先端の新技術開発に興味を移し、より直接的に消費者や社会に貢献したいと考えるようになりました。新技術の追求は彼に興奮をもたらし、研究開発のキャリアを追求する動機となりました。
AYALA IAS准教授は、横浜国立大学での研究を通じて、より省エネルギーな計算方法に基づいて情報通信技術(ICT)におけるエネルギー消費の低減を目指しています。同時に、シミュレーション、コンピュータ支援設計、および電子設計自動化の分野から新しいアルゴリズムや設計、シミュレーションツールに渡る様々な新規技術を用いて、横浜国立大学での超伝導回路技術の開発に役立たせたいと考えています。
AYALA IAS准教授は、自身の研究を通じて、省エネルギーの高性能コンピューティングや、AIや暗号化などの技術を取り入れた新しい計算方法の創出に貢献したいと願っています。
質問:現在取り組んでいる研究について教えてください
私は、断熱量子磁束パラメトロン(AQFP:Adiabatic quantum-flux-parametron)に基づく超伝導回路技術の研究に従事しています。AQFPは、マイクロプロセッサなどのデジタルエレクトロニクスにおいて断熱的に動作する超伝導論理回路の基本ゲートとして利用されます。この技術は、GHz領域の実用的な計算速度を実現しながら、極めて小さなエネルギー(1 zJ (10-21))しか消費しないため、最もエネルギー効率の高いコンピューティング技術の1つとして注目されています。私は、AQFPエレクトロニクスを活用した実用的で機能性に優れた回路やシステムを実現するために、設計手法やコンピューターアーキテクチャに関する研究を行っています。
最初の段階として、私はグループを率いて、世界で初めて断熱的に動作する超伝導マイクロプロセッサであるMANA(Monolithic Adiabatic Integration Architecture)を開発しました。この成果は、高いレベルの科学ジャーナルに掲載され、IEEE Spectrum、Superconductor Week magazine、Nikkei xTECHなどのメディアでも取り上げられました。さらに、この業績により、電子情報通信学会超伝導エレクトロニクス研究会の業績賞を受賞しました。これは、私たちのグループにとって大きな成果であり、AQFPの実用的なエレクトロニクス応用に向けた新たな道を切り開きました。現在、私たちのグループは、これらの課題に取り組んでいます。
質問:IASの研究環境と雰囲気についての感想を聞かせてください
私たちの研究グループは、大規模で国際色豊かです。IAS内の研究室(山梨裕希教授など)と緊密な連携をとっていますが、さらに、ドイツ、フランス、スイス、南アフリカ、中国、アメリカなど、世界中の有名な大学や研究所との共同プロジェクトも進めています。外国人教授、研究者、学生、そして年間を通じて客員研究員も多数在籍しています。そのため、特定のトピックに取り組む教授、研究者、または学生に簡単にアプローチでき、そのトピックについての理解を深めることができます。また、これらの国際的な繋がりを通じて、海外での有益な研究関係を築く機会が豊富です。例えば、昨年10月に南アフリカで共同研究者が主催したワークショップには、私たちの学生も参加し、最新の設計やシミュレーションツールについて学びました。また、私たちの研究グループのメンバーは通常、年間2〜3回の国際会議で発表を行い、新しい研究アイデアや異文化に触れる機会を得ています。
私にとって重要なのは、勤務時間がフレックスタイム制度であることです。IASの研究活動は柔軟であり、成果物提出の締め切りを守れば、自分の時間の使い方が自由です。特に、私のように幼い娘がいる場合、柔軟な勤務時間は非常に助かります。
最後にIASでは、研究から個人の興味や目標まで、どんなトピックでも、リラックスした雰囲気で自由に提案や相談、疑問を述べることができます。ここでは、質問することや自己表現することを恥ずかしく思いません。このようなオープンな雰囲気が、私たちのグループが強い国際的な影響力を持つことと、メンバーが科学的な好奇心を持ち続けることの一因だと思います。
質問:今までの人生について、100点満点で自己評価するとしたら、何点だと思いますか
自己評価は100点満点中75点と考えています。これまでの人生での研究の進展に満足しており、与えられた機会に感謝しています。また、自分の努力を通じて家族に良い生活を提供できたことも嬉しいです。ただし、自己評価が75点というのは、常に改善の余地があることを示していますし、私の目標や成長への欲求も反映しています。正直に言えば、常に100点に到達し続けることは難しいかもしれません。それは、自分の認識や目標の変化に応じて、今日の100点が明日の90点になる可能性があるからです。
子どもの頃は、何かを達成できなかったり、他の人が自分よりもうまくできるのを見ると、すぐに落胆していました。もしも今、子ども時代の自分が隣にいるなら、他人と比較せず、自分の成長を楽しむよう伝えたいです。他人の成功を羨まず、自分の進歩と成長を楽しむことが大切です。そして、子ども時代の自分への軽いメッセージとして、「今は信じられないかもしれませんが、いつかは憧れのアニメや漫画に溢れた国で暮らすことになるよ」と伝えたいと思います。
質問:今後のキャリアや人生の目標について教えてください
IASの一員になってからほぼ10年が経過しました。今年、私の任期が終了したので、他の部門、学校、または国内外での雇用の機会を探さなければなりません。研究者の転職は、多くの書類(時には提案も含まれます)を用意する必要があるため、ストレスを感じる人もいるでしょう。しかし、私はこれをキャリアアップのための自然な段階だと考え、新しい変化に期待しています。
転職の準備過程では、IASでの研究領域だけでなく、自分の興味のある研究の方向も整理し、自己探求の旅を始めました。IBMでの博士研究員時代のアイデアを振り返り、IASで得た新しい知識を加えて再考してみました。したがって、次のポジションはまだ未定であるものの、将来に期待しています。そして、これまで築いてきた吉川教授のグループとの緊密な協力関係や共同研究者とのネットワークを、今後も維持したいと考えています。
また、新しいポジションが何であれ、それを通じて家族に素晴らしい生活と豊かな人生を提供できることを望んでいます。
質問:日本での特別な経験について教えてください
日本での数々の思い出の中でも、最も大きな出来事は、私と妻が新潟県南魚沼市で行った結婚式です。この場所は妻の父の故郷でもあります。結婚式では、私たちや家族、友人、地元の企業が手作りしたものが多く使われており、南魚沼市特有の雰囲気と国際色豊かな要素が見事に融合した雰囲気の中で開催されました。私たちの研究グループのメンバーも出席し、日本酒の八海山を楽しみながら素晴らしい時間を過ごしました。結婚式は地域で多くの注目を集め、日本の結婚雑誌『Zexy』にも掲載されました。この結婚式が私の家族生活の始まりであり、その後の多くの思い出に残る出来事のきっかけとなりました。
質問:来日前の自分と比べて、今の自分にはどんな変化がありましたか
以前の自分と比べて、より充実した研究者になったと思います。IASでの研究経験により、超伝導回路技術についての多くの側面をより深く理解できました。また、学生指導の面でも豊富な経験を積みました。数年間にわたり多くの学生の指導に携わり、その中では二人の博士課程修了生も育成しました。さらに、世界中の異なる国の複数の主任研究者が関わるプロジェクトを率いる経験も積みました。
また、今の私は、家族ができたことで、自分の時間をより大切に考えるようになりました。妻や子供たちと一緒に過ごせるよう、無理なスケジュールには断りを入れるようにしています。
日本での生活は、外国人にとって時には挑戦的なものですが、吉川教授や彼のグループ、IAS、そして家族からのサポートのおかげで、多くの障害を乗り越え、充実した研究者として、そして人として成長することができています。
質問:IASに来る、来ようとしている外国の研究者へのメッセージ
コミュニケーションは非常に重要です。研究や生活全般での問題のほとんどは、コミュニケーション不足から生じており、何かが適切に伝えられず、相互理解が得られなかったためだと考えられます。そのため、私はグループ全員がリアルタイムで要点や行動項目をまとめて書き込むことができる「仮想ワークスペース」を作りました。そこで、皆さんの記入した内容を見ることができ、理解できない箇所や誤解が生じやすい点について、直接対面の際に相談や説明を行うことで解決できます。コミュニケーションに関してもう一つ大切なことは、同僚や学生に質問することをためらわないことです(逆も同様です)。難しい問題は、必ずしも一人で解決されるわけではありません。新しい視点やアイデアは、問題解決に役立つことがあります。総括すると、オープンで明確で偏見のないコミュニケーションが、研究や生活の中での課題を乗り越える鍵であると考えられます。
また、外国人にとって、日本での生活は挑戦的なもので、無力感を感じたり、イライラしたりする場合は決して少なくないと思います。そのとき、職場の方に助けを求めることを恐れないでください。日本での経験は、自己成長に繋がり、より良い自分と出会えることが可能です。ここでの時間を最大限に活用し、日本を離れても続けられる持続的な友情や協力関係を築くよう努めてください。