2024.11.27

 横浜国立大学理工学府の岩田時弥氏、根津昇輝氏、先端科学高等研究院・総合学術高等研究院の関口康爾教授らの研究が、国際的に著名な学術雑誌『Applied Physics Letters』の表紙を飾り、Featured Articleとして大きく取り上げられました。この研究結果は、従来の常識を覆すものであり、スピントロニクス分野における新たな研究展開を促すことが期待されます。

 省エネルギー社会の実現に向けて、電気信号に代わる新たな情報伝送手段として、スピン波が注目されています。特に、ソリトンと呼ばれる安定な波動は、長距離かつ高速な情報伝送を可能にするとして期待されてきました。従来の研究では、特定のスピン波モードにおいてソリトンが形成されると考えられており、これに基づいたデバイス開発が検討されてきました。しかしながら、実用化に向けた研究が進む中で、ソリトンを用いた長距離伝送の実現は依然として課題として残されていました。本研究では、この課題解決に向け、スピン波ソリトンの形成メカニズムをより深く探究しました。その結果、これまでソリトンが形成されると考えられていた特定のスピン波モードにおいても、周波数依存性があり、ソリトン形成が阻害される領域が存在することを明らかにしました。この発見は、スピン波ソリトンの生成と伝搬に関する従来の理解を根本から見直し、より効率的なスピン波デバイスの設計指針を与えるものです。

「Frequency-dependent breakdown of backward volume spin-wave soliton formation」岩田時弥(横浜国立大学)、根津昇輝(横浜国立大学)、関口康爾(横浜国立大学), Applied Physics Letters, doi: 10.1063/5.0213617

本研究では、スピン波ソリトンどうしの衝突実験を行い、衝突後の信号形状を詳細に研究しました。その結果、特定のキャリア周波数帯域においてスピン波のソリトン形成が困難であることを初めて明らかにしました。
[論文リング] https://doi.org/10.1063/5.0213617

 本研究で得られたキャリア周波数依存性の知見に基づき、複数のスピン波信号の衝突における減衰を抑制し、高純度なスピン波伝送を実現しました。この成果は、マイクロ・ナノスケールのスピン波回路設計に新たな可能性をもたらし、次世代スピン波デバイスの実現を加速します。

横浜国立大学 先端科学高等研究院
E-mail:ias-ims(at)ynu.ac.jp
※(at)は@に置き換えて下さい。